仕組み債をあえて薦めるIFA

2023/10/22




昨今、仕組み債と呼ばれる金融商品は、その複雑性ゆえに敬遠されがちで、また顧客に
買ってもらえたとしても、説明不足の場合、損を被ったときに顧客が「騙された」と思
ってしまうきらいがある。しかし、仕組み債そのものが悪いということはあり得なく、
むしろ適切に運用することで顧客により大きな価値を与えることができる可能性を持っ
た商品であるということを、この記事を通して説明していこう。









1:仕組み債はなぜ毛嫌いされる?

端的に言えば、「複雑だから」。これに尽きると思う。通常の金融商品でさえ株、債券
、投資信託など多様な形態をとり、内容も簡潔な説明が難しいが、仕組み債はその株式
や債券などにさらに手の込んだオプションを設けたものであるため、その分だけ複雑に
なり、営業マンとして顧客に説明する際の労力も、顧客として営業マンの説明を理解す
る際の労力も、かなりかかってしまう。その結果、説明がうまくいかず、顧客に誤解や
理解不足が生まれ、顧客の認識としては「損失を被った=複雑怪奇な説明でうまくやり
込められ、騙されてしまった」ということになってしまうのである。
このような齟齬が
多く起こった結果、現在金融商品周りの紛争あっせん件数の37.11%が仕組み債関連で
あり、金融庁からも問題視され、野村證券、大和証券など、大手証券の多くで仕組み債
の扱いを停止する事態になってしまっているのだ。しかし仕組み債を売ることができな
いという現状は、投資を考えている顧客の機会損失につながる。それは、後述でも説明
するが、仕組み債そのものが悪いということが根本的にあり得なく、むしろ営業側の明
快な説明による顧客側の十分な理解があれば、取りたいリスクを適切にとることで、顧
客の投資をサポートするための有効なツールとなるからだ。どのようにリスクを管理で
きるのかを適切に顧客が理解すれば、その顧客はより投資に傾くようになるだろう。ま
た、仕組み債は毛嫌いされているが、世界銀行やその他の公的金融機関が仕組み債によ
って資金調達をすることがあるのをご存じだろうか。
世界銀行は、自然環境の保護
や、途上国の発展の支援など、世界にとってなくてはならない事業に投資をしたり、実
際に達成することを目的とした組織である。もし仕組み債がこの世になければ、世界銀
行の取り組んでいるプロジェクトのうちいくつかは立ち行かなくなり、今日の社会は今
と異なった姿だっただろう。このように、仕組み債はいち金融商品というだけでなく、

世界の諸問題の解決にも少なからず寄与しているのだ。

2:仕組み債を売る際のIFAとしての責任

先述の部分で、仕組み債の説明を受ける際の顧客の労力について言及したが、これは決
して顧客側の努力を期待する趣旨で書いたわけではない。複雑な仕組み債の説明に付き
合ってもらうだけの信頼を築き、さらに簡潔に、わかりやすく説明できるよう、営業マ
ン( IFA)側がそれを補う勢いで勉強し、説明のための準備などの努力をしなければな
らない、という含意である。そもそも先述のような現状になってしまった背景としては
、顧客への商品の丁寧な説明を怠り、ただ「売りつける」ことを優先してしまった営業
マンが多く生まれてしまったことが大きいからである。信頼を得るためには、変動し続
ける市場や改革される法案などを把握するための日々の弛まぬ勉強と、その成果として
の実績が求められる。IFAの新規開拓のテクニックで紹介した方法を用いれば、比較的
容易に実績を積むことができるだろう。その実績から得られる信頼で、仕組み債の説明
に耳を傾けてもらうことがゴールである。





3:仕組み債の優位性

仕組み債は、通常の商品に比べ、より顧客のリスクを管理しやすくなる商品形態であると言ってきたが、ここで具体例を用いて、どのようにリスクを軽減できるのか説明しよう。例えば、Aという会社の債券で、会社Aの株価が、買った当時の株価の50%を下回らない限りは元本を失わない、という仕様の仕組み債があったとする。さらに、過去10年で会社Aの株価が現在の株価の50%を下回ったことがないとしよう。単純に会社Aの株を買う場合だと、その株価が少しでも下がった瞬間にその分資産が減ったことになるが、このような仕組み債は、株価が下がっても株価が基準値の50%を下回らない限り元本は保証され、利息の受け取りは可能なため、単純に会社Aの株を買う時とは異なる形でリスクを取ることができている。この例を、具体的な数値を用いてより詳しく解説しよう。会社Aの株価が1万円であり、過去10年間で株価が5000円をきったことがなく、さらに株価が上り調子であったとしよう。このとき、この先会社Aの株価が5000円を切るようなことは想像しづらい。しかし、このような優良な株であっても、短期的に見れば元々買った時の値段に比べて、50%減とはならずとも、多少下がることはあるだろう。こうなった時、A社の株の保持者からすれば資産が減ったことになる。しかし、先述のような、株価が買った時の50%を下回らない限り元本が保証される仕組み債を買った場合、A社の株価が5000円を切らない限りは、債権の元本は保証され、その利息が3%だったとしたら、年間150円の利息を受け取れることになる。もちろん、万が一A社の株価が5000円を下回ったら、その時点で元本は失われるのだが、このような仕組み債は、通常の株式、債権などの金融商品とは異なったリスクをとることができ、投資の幅を広げてくれるのである。以上のように、複雑ではあるがリスク軽減という大きな利点のある仕組み債は、IFAにとっては相性がいいと言えるのではないか。要するに、綿密な準備と確かな知識に基づく提案力、説明力があれば、顧客にその投資に対してより多くの選択肢をもたらすことができる、という性質であり、まさに実力が反映される商品形態と言えるからである。



末筆となるが、このような大手証券特有の難点に頭を抱えている読者は多いだろう-お客様の利益を最大化できる商品よりも、新商品など、自社の売り出したいものを優先して売る傾向、地方に転勤となった途端に一変する生活(もしくはその不安を抱えながらの勤務)、成果を出しても年収への反映がイマイチ…といった点である。さらに、こちらの記事でも解説したように、大手証券はこの先、必ずしも明るい未来を迎えるとは限らない。そんな中優秀な読者のみなさんがIFAをはじめとした他業種への転職に今ひとつ踏み出しにくい理由は、やはり転職によって大企業特有の安定性を手放すことへの不安を感じていらっしゃるからではないだろうか。しかしIFA法人によっては、IFAを社員として起用し、固定給を支払う雇用形態も用意している。そのような法人へ転職すれば、年収の安定性もある程度担保しつつ、上で述べたような大企業特有の難点を全て完全に解決することができる。もちろん、自信がついてきたらインセンティブの部分を多く設定することも可能である。なんと取引で上がる利益のうち、70%がIFA個人に入るという形態もある。IFAとは、知名度こそまだ十分にないが、営業マンの理想に少なからず近づける職業であると言える。

画像:著作者:KamranAydinov/出典:Freepik